刈った草と、売れ残りの野菜。どちらも「捨てるもの」です。それを電気に変える装置が、石川県のスーパーの裏で毎日動いています。テレビ(北陸朝日放送)の特集を見て、草刈りと山を仕事にする私たちが知っておくべき話だと思い、番組と、大学・国・会社の公開資料をたどってまとめました。
この記事の要点
- 雑草や野菜くずを、牛の胃の微生物で溶かし、メタンガスにして発電する。装置の名前は「エコスタンドアロン」。
- スーパーの廃棄野菜30kgで1日約2.2kWh、スマホ150〜200台分の電気になる。
- きっかけは2011年の東日本大震災。停電しても、草と野菜くずを持ち寄れば自分たちで電気を作れる、が目標。
- 残った発酵液は肥料になる。国の事業(SATREPS)に採択され、カンボジアの地雷撤去地域で5年計画が始まる。
- 木は同じ方法では溶けにくい。草や食品くずはメタン発酵、木は燃やして熱や燃料に、が役割分担。
何をしている装置なのか
石川県立大学(石川県野々市市)の馬場保徳(ばば・やすのり)准教授が、10年以上かけて開発した装置です。名前は「エコスタンドアロン」。スタンドアロンは「ひとりで立つ」という意味で、外から電気をもらわずに自分で電気を作る、という思いが込められています(2023年に命名)。
しくみはこうです。
肝心なのは2番目のタンクです。草や野菜は、そのままではメタン菌が食べられません。そこで牛の第一胃(ルーメン)にいる微生物を人工的にタンクで培養し、先に草を溶かしてもらいます。牛が草だけで生きていけるのはこの微生物のおかげで、馬場さんはこの微生物を長く研究してきた人です。会社ではこの技術を「GEP(ゲップ)ソリューション」と呼んでいます。溶けた液を次のタンクに送ると、メタン菌がガスに変えます。メタンは都市ガスの主成分ですから、あとはガスを袋にためて発電機に送るだけです。
スーパーの裏で毎日動いている
実証の場所は、石川県川北町のスーパーマーケット「PLANT-3 川北店」のバックヤードです。2023年12月に設置され、2024年1月から動いています。売り場から出る野菜くずを、粉砕機でくだいてタンクに入れます。
性能は、政府広報の記事では「廃棄野菜30kg/日で約2.2kWh、スマホ150台以上の充電」、番組では「30kgで毎日約200台」と説明されています。作った電気は蓄電池にためて、店員のPHSやタブレットの充電に使っているそうです。電力会社の送電線に流すほどの量ではなく、「その場で使う電気を自分で作る」規模の装置です。番組によれば、店ではこの1年でおよそ2トンの野菜くずを捨てずに使いました。
冬はみかんの皮ばかりの日もあったそうですが、みかんだけでも発酵は問題なく進んだとのこと。「食品であれば、だいたい何でもメタンガスと電気に変えられる」と馬場さんは話していました。
避難所で決めたこと
馬場さんは2011年、東北大学にいて東日本大震災に遭い、避難所に入りました。温かい食べ物はなく、夜の明かりもなく、携帯の充電が切れて家族の安否も分からない。「捨てるものからエネルギーを作る研究者なのに、何も助けられない」。そのとき目の前にあった雑草を電気に変える、と決めたのが出発点だったそうです。
2016年に石川県立大学へ移り、2022年8月には大学で初めての大学発ベンチャー「環境微生物研究所株式会社」を設立して代表取締役に就きました。2025年8月には電源開発(J-POWER)が出資を決めています。
そしてPLANT-3で実証が始まる直前の2024年1月1日、能登半島地震が起きます。「また目の前で地震が起きているのに、役に立つ場所に置けていない」。小型の装置を能登へ運ぼうとしましたが、道路が寸断されて断念。「災害が起きてから運ぶのではなく、平常時から置いておく」という方針に変わりました。番組では、被災地でボランティアをする中で出会った、災害時の拠点をめざす元スーパーに装置を置く計画が進んでいると紹介されています。
カンボジアの農村へ、5年計画
2025年4月、この研究はJICA(国際協力機構)とJST(科学技術振興機構)が組む国の事業「SATREPS(地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム)」に採択されました。相手はカンボジアのバッタンバン州。内戦のあと地雷を除き、農業を立て直している地域です。相手国の機関はカンボジア経営経済大学、期間は5年で、2026年から動き出します。
燃料代と肥料代が重く、農家の手取りがほとんど残らない。そこで、草や作物の残りから電気を作り、残った発酵液を肥料として畑に戻せば、買う燃料と肥料が減って手取りが増える、という考え方です。JSTの計画には「1haの水田のそばにバナナを90株植えれば、その茎と葉から燃料と肥料を自給できる」という試算も載っています。
草刈りと山を仕事にする側から見ると
私たちは伐採と草刈りを請け負っています。法面や大面積の草刈りで出る刈草は、いまは集めて処分するか、その場で枯らすかのどちらかです。この装置の考え方でいけば、刈草は「処分に困るもの」から「電気と肥料の材料」に変わります。すぐに事業になる話ではありませんが、覚えておく価値はあると思います。
一方で、木は話が別です。木の幹や枝には「リグニン」という硬い成分が重さの2〜3割も入っていて、牛の胃の微生物でも溶かしにくい。馬場さん自身のカンボジア計画が、木を腐らせるキノコの仲間(白色腐朽菌)で先に崩してからルーメン微生物にかける「ハイブリッド型」になっているのは、そのためです。農林水産省の技術整理でも、メタン発酵の原料は「下水汚泥・家畜のふん尿・食品廃棄物」で、木質は「燃やす」「ペレットや半炭化(ブラックペレット)にする」「ガス化する」に分類されています。
| 材料 | 向いている使い方 | 理由 |
|---|---|---|
| 雑草・刈草・野菜くず・食品残さ・家畜のふん尿 | メタン発酵(この記事の装置) | やわらかく水分が多い。微生物が分解しやすい |
| 間伐材・枝・樹皮・製材くず | チップ・ペレット・ブラックペレットにして燃やす(熱・発電) | リグニンが多く発酵しにくい。乾かして燃やすと熱量が大きい |
つまり、山からは木を、里からは草と食品くずを。それぞれに合った方法で「捨てるもの」をエネルギーに変えていく。この整理が、私たちの仕事とこの研究の接点だと思っています。
あわせて知っておきたいこと(木の側の話)
「停電しても自分たちでエネルギーを作る」という考え方は、木の側にもあります。国が後押ししているのは、大きな発電所より地域の中で木を集めて熱に使う小さなしくみ(林野庁のいう「地域内エコシステム」)です。
- 補助率。林野庁の木質バイオマス利用促進施設整備では、熱利用や熱電併給の施設は補助率3分の1、地域内エコシステムに当たる取り組みは2分の1。移動式チッパーなど枝葉や短い材を集める機材も2分の1です(令和8年5月時点の資料)。
- 避難所になる温泉。和歌山県みなべ町の鶴の湯温泉は薪ボイラーを入れ、停電や重油切れでも入浴できる避難所指定の施設になりました。薪は地元の備長炭原木林から出る雑木です。
- 石川県内の例。白山市尾添の一里野高原ホテルは、地域の協議会が地元の材を薪にして供給し、急な山の手入れと温泉の熱需要を結んでいます。
草は発酵させて電気に、木は燃やして熱に。どちらも「災害のときに外から来ないものを、地元で作る」という一点でつながっています。
出典
- 北陸朝日放送「ふむふむ」雑草や野菜くずから電気を作るエコ発電(2026年1月23日)
https://youtu.be/N7IQK3yRKbM - 政府広報 KIZUNA「Energy from Weeds」(2026年1月23日)
https://www.japan.go.jp/kizuna/2026/01/energy_from_weeds.html - 石川県立大学 研究シーズ集「エコスタンドアロン」(2024年2月26日)
https://seeds.ishikawa-pu.ac.jp/pickup/1188/ - 石川県立大学「PLANT-3川北店で実証開始式」(2024年1月18日)
https://www.ishikawa-pu.ac.jp/staff/achievement/2122/ - 環境微生物研究所株式会社 公式サイト
https://emi-methane.com/ - J-POWER「環境微生物研究所株式会社への出資について」(2025年8月1日)
https://www.jpower.co.jp/news/2025/08/news250801.html - JST SATREPS 令和7年度採択課題(カンボジア)
https://www.jst.go.jp/global/kadai/r0705_cambodia.html - JICA プレスリリース SATREPS 2025年度新規採択(2025年4月17日)
https://www.jica.go.jp/information/press/2025/20250417_11.html - 福島イノベーション・コースト構想推進機構 Hama Tech Channel(2025年11月14日)
https://www.fipo.or.jp/htc/1/39492 - Spirete note「補助金ありきでないと導入が難しい」ほか開発元の取材(2025年10月29日)
https://note.com/spirete/n/neaa863fcdaae - 農林水産省「バイオマス利用技術の現状とロードマップ」
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/attach/pdf/index-28.pdf - NEDO「メタン発酵技術に係る基礎知識」
https://www.nedo.go.jp/content/100932093.pdf - 林野庁 木質バイオマスの利用促進(補助制度)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/biomass/con_4.html - 林野庁 木質バイオマス熱利用・熱電併給事例集(第2版)
https://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/biomass/attach/pdf/con_4-39.pdf
この記事は公開されている番組と資料をもとに書いています。装置の性能などの数字は各出典の時点のもので、当社が計測したものではありません。
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